Tree of Savior

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"参戦"

シュヴァルツライターマスターであり、「黄金の歌傭兵団」の団長でもあるウオシス。
彼が野戦場に設置された幕舎で銃器の手入れをしていると、部下の声が聞こえた。

「お客様がお見えです。」

「通せ。」

副団長ポール・フエンクは、まるで猿かゴリラかといった風体ではあるが、かなりの切れ者だ。
そんな彼がいつものように自分の判断で依頼の受任を決めなかったということは、
何か重要な問題が起きたという意味でもある。
おそらく、訪ねて来た依頼人との契約に何か問題があったのだろう。
もしくは客の身分が、直接面会しなければならないほどに高いのかもしれない。

「ポラニー領地からいらした方です。」

「失礼いたします。ポラニー領地を代表して参りました、イルトレンと申します。」

ウオシスも立ち上がり儀礼的な挨拶を終えると、
イルトレンはウオシスに──おそらく副団長にはすでに伝えたであろう用件を──話し始めた。
同じ言葉を繰り返していると表情に面倒臭さが表れそうなものだが、そんな様子はみじんも感じない。
自分の手間など考える余裕がないほどに差し迫った事情があるか、
よほど交渉ごとに長けているか、どちらかなのだろう。
彼からは苛立たしい気配や不安げな様子は感じられなかったので、ウオシスは後者と判断した。

「我らがポラニー領地は、先代の公爵が三人のご子息に領地を分割してそれぞれ後継者としました。
そのため爵位も下がって各領地の規模も小さくなったのですが、
これまでは領地を分け合ったご子息方が、それなりにバランスを取りながら治めておりました。
しかし、最近になってご長男が後継者のないまま亡くなられたため、
本家の領地の所有権が残りのお二方に分けられることになったのです。
ところが、お二方ともご長男の領地を分け合うことに同意せず、
ついには武力による争いに発展してしまいました。」

ウオシスはよくある話だと思ったが、一つだけ質問せざるを得なかった。

「分け合うことを拒否するのは人の欲として理解できますが、
我が王国には領主間の紛争を調整する儀典大臣がいるというのに、
そんな状態になるまで連絡はなかった……ということですか? 」

「……もちろん、他の貴族が領地を巡って争えば儀典大臣が役人を派遣して過去の文書を調査しますし、
何よりも王国の儀典部にある貴族の土地台帳を見て誰が正しいのか判断を下すでしょう。
しかし王室は、貴族が治める領地内部の統治と行政には干渉しないことが原則です。
領民に対する貴族の不当な横暴や魔族との結託、王室への謀反や神聖な女神への冒涜など、
そういった大罪を犯しているという告発や心証があれば、貴族を管轄する儀典大臣が捜査し、
事実であればすぐに王国軍や王国騎士団が出動して戒めます。
が、それほどのことでないならば、自分の領地をどのように治めるかという問題は、
全面的に領主の権限に委ねられています。」

「それでも、儀典大臣の権限で是正命令程度は下せるはずでしょう。」

「ええ、その通りです。ですが、たとえ王国法令に反する領主の統治行為であっても、
よほど深刻でなければ是正命令も下されません。
地方領主の立場で儀典大臣の是正命令に抵抗することはありませんが、
逆に是正命令を下すほどに深刻だと判断されることもほとんどありません。
是正命令が出るには、かなりひどい状況ではなければならないのです。」

「まあ……たしかに、領民に対する裁判をまともに行わなかったり、
誤った政策を立てて飢饉を起こしたという理由で処罰された領主はいませんな……」

「ええ。無能であるという理由で処罰された領地貴族はいないのです。
領主が裁判下手でも近くのクレリックを訪ねて訴えるとか、
それでもだめならば王国首都の法務大臣に直訴をする方法もあります。
裁判や統治がよほど不当なものでないかぎりは、
領民も得をしたり損をしたりしながら暮らしているのですよ。」

「つまり、今回の件も領地内部の問題とみなされて、国は介入しないということですか? 」

「それもありますが……本家の領地に属する領民も、
相続者がいないまま国王に行政官を派遣されるよりは、先代領主のご子息に治めてほしいと願っています。
ご存知でしょうが、相続者がいなかったり領主が罪を犯して貴族の地位をはく奪されたりすると、
その領地は王国直轄領となって行政官が派遣されます。
また、誰かが功を立てて貴族になると、褒賞として主のいない領地が下賜されることもあります。
それはともかく……王国直属の行政官は任期が終われば再編成されますので、
領主ほどその地域に愛着を持たれないことが多いのです。
本当に有能で人の好い役人が赴任しても数年後には王国へ帰ってしまいますし、
無能な役人が赴任しようものならば悲劇です。
そんな理由もあって、領主が長期統治するほうが望ましいですし、
特にポラニー領地は先代領主が善政を施したので、今も人気が高いのですよ。」

「ふむ……我らが王国の領主が比較的まともな理由は、
彼らを統制する王国法があり、女神の神託をすぐに受けられる司祭たちが傍にいるからです。
似たような水準の統治者が治めるならば、任期が短く頻繁に交替する行政官よりも、
一生をかけて治める領主の方が長期的に見れば政策にも一貫性があり、 "まし" なのは当然。
しかし、必ずしも領主が行政官よりも優れているとは言えないのでは? 」

「まあとにかく、今回の件では今は形式上三つの独立した領地になっていますが、
まだ分けられてまもないですし、領民も再統合を願っているので、
儀典大臣も "お前たちの好きにしろ" と投げ出した形になっています。」

「儀典大臣が寛容にも領主と民に裁量権を与えてくださったのだから、感謝して話し合えばいいものを。
何を勘違いして殺し合いをしているのです? 」

「殺し合いはしていませんし、するつもりもありません。
話し合いでも結論が出ないことが問題なのです。
ですが、このような問題が起きるからこそ、マスターの傭兵業も成り立つのでは? 」

「ふむ、なるほど。
領地の兵や領民を動員して死傷者が出れば国が出てくるだろうから、直接争うことはできない。
しかし話し合いでは百年たっても結論が出ないので、
傭兵団を雇って代わりに戦わせる……ということですか。
それは構いませんが、依頼を受けたら要約して報告をすれば済むのに、
わざわざ依頼人を私に会わせたということは──」

会話の途中でウオシスはポールのほうへ唐突に振り向き、続ける。

「理由があるのだろう、ポール? 」

これは間接的に、依頼人あるいは依頼の代理人に直接会う必要はなかったと言ったも同然であり、
ウオシス自身も客人に対して失礼な物言いであると半ば自覚してはいたが、あえてそれを無視して尋ねた。
それを受け、副団長は予想以上に簡潔な返事でその理由を説明した。

「相手方が雇った傭兵団が、刃の誓い傭兵団です」

「ああ……なるほど。だが、私がクエラを恐れるとでも?
それとも相手がクエラだから、依頼人が私から直接返事を聞くべきと考えたのか?
まあ、どちらでも構わん。むしろ、報酬をもらってまで奴らと戦う機会はそうないからな。」

そしてウオシスはイルトレンの方へ向き直り、すかさず返事をした。

「依頼は受けます。詳しい契約内容については、副団長と話し合ってください。」

そんな言葉と簡単なあいさつで客を送り出し、ウオシス・クリークは満足げに笑みを浮かべた。

「久々のお楽しみだな。」

<二章へ続く>

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